季節の訪れを告げ、その季節が過ぎるとすっと姿を消してしまう。
和菓子には、その季節にしか出会えない「その季節だけにつくられる和菓子」がある。
正月に花びら餅、雛祭に菱餅や草餅、彼岸におはぎ、端午の節句に柏餅やちまき、
月見に月見団子など年中行事にちなんだものが多い。
和菓子は、生活に彩りを添え季節の移ろいを知らせてくれる、大事なよすがとなっている。
四季折々に表情を変える日本の自然の豊かさを、召し上がる人に感じてもらえるように
意匠をほどこす「季節を表す和菓子」もある。
きんとんや煉り切り、こなしなどの餡を用いて、味は一年中変わらず、美しい形や色合いで、
装いを変え、菓銘の響きで、折々の風物を写し出すのである。
手のひらにのるほどの小さな和菓子は、日々の暮らしに季節を呼び込む大きな力を持っている。
羊羹や饅頭といった種類を表す名前のほかに、和菓子には、植物や風物、名所、和歌や歴史などからつけられた菓銘(名前)がある。菓子に銘をつけるようになったのは江戸時代。
茶席で菓子の銘を聞き、即座にその意味を悟るのが男性の教養の証とされたか、江戸時代に出版された『男重宝記(なんちょうほうき)』には、約250もの菓子の名が載っているという。
作り手が思い描いた風景や込めた思いを読み取れるのが、和菓子の魅力である。
まずは、銘を聞く。そして名前の奥にひそむ、日本文化を楽しむ。
和菓子にはそんな楽しみ方もある。
【参考文献】
現代用語の基礎知識編集部編(2015)『日本のたしなみ帖 和菓子』自由国民社.
東京和菓子協会『和菓子』
NHK美の壺制作班編 (2007)『NHK 美の壺 和菓子』日本放送出版協会.